博士論文審査のopponentを勤める(審査会編)

就任・査読編の続きです.

12月3日,ノルウェー科学技術大学での博士論文審査にopponentとして参加してきました.飛行機の便の関係で12月1日に日本を発ってノルウェーのトロンヘイム(Trondheim)に行き,現地の先生と打ち合わせしたりしていました.

博士候補者の指導教員の先生から言われたのは,「アジア人は遠慮深いやつが多いけど,どんどん質問していいんだぞ.いや,質問しないといけないんだぞ.遠慮するな.」

…マジですか.いや質問しますよ,しますけど,緊張するじゃないですか.

当日はもうひとりのopponentの先生とホテルのロビーで待ち合わせて,徒歩でNTNUへ.道すがら,もうひとりの先生のopponent経験などを教えてもらいました.なお今回の審査委員会は,NTNUの先生がひとり(この人が代表),フィンランドの先生(first opponent)と金野(second opponent)の計3名で構成されます.

審査会は,まず午前中にtrial lectureというのがありました.これは博士候補者が自分の研究テーマのみならず広い専門分野の知識を持っていることを確かめるためのもので,テーマは審査委員会が相談して決めて,審査の2週間前に候補者に伝えます.金野はテーマの決め方が分からなかったので,試みにice mechanicsというテーマを提案してみたのですが,それだと幅広すぎるということでもう少し絞り込んで,“The role of mechanical properties of sea ice in the ice action on ships” というテーマに決まりました.

このtrial lectureのあたりからだんだん分かってきたのですが,ノルウェーの博士論文審査は,原則として博士候補者とopponentの間でのやりとりがメインで,それ以外の人は原則として発言しないようです.今回の審査に関していうと,午前,午後ともに国内外から多数の聴衆が来ていましたが,候補者と審査委員の他は誰も発言しませんでした.opponent重要じゃん! どんどん緊張が増します.

(おかげで,時差があっても眠くならずにすみましたが.)

昼休みは,指導教員と審査委員の先生たちと食事したあと,審査委員代表の先生のオフィスで,博士論文審査報告書を途中まで作りました.それと,午後の審査の際に代表の先生がopponentのプロフィールを聴衆に紹介するので,金野の経歴などを説明しました.

午後が審査の本番,博士論文の内容に関する質疑応答です.先ほど聞かれたopponentのプロフィールが紹介されたあと,審査委員代表の先生が「opponent以外の人が発言するときは,まず司会の私の許可を取るように」との注意がありました.えっ,そういうもんなの!? opponent重要じゃん!? ますます緊張が増します.

候補者が博士論文の内容を発表しました.たしか45分間だったと思います.事前に論文を読んでいたので概要は分かっていましたが,発表を聞きながら気になるところをメモしていきました.いま見返してみると,ノートに3ページのメモを作っていました.

次に,opponentとの質疑応答(対決!)がはじまります.まずはfirst opponentからはじまりましたが,その先生がメモを片手に部屋の前方に出ていって質疑応答をはじめたのには焦りました.椅子に座ったまま質問すればいいと思っていたからです.対決感出てましたねぇ.

分からないところを質問するだけじゃダメらしい,といまさらながら気づき,自分の番を待っている間は,何をどういう順番で聞いたらいいだろうかと構想を練りました.前の先生の質疑応答は1時間近くかかったと思います.自分の質疑応答の作戦を立てる時間が取れたのはありがたかったですが,自分の番が来たときにそんなに長い間質疑応答していることができるのだろうかと心配もしていました.

first opponentの最後の質問が印象的でした.「あなたの研究成果の中で,10年後にまだ残っているものは何か?」 面白い質問ですよね.自分の研究を客観的に評価できていないと,適切な答えが出てこないはず.今回の候補者は適切に回答していたと思います.

そしてついに金野の番.はじまったのは,ちょうど3時でした.招いてくれたことへの礼をぎこちなく述べたあと,拙い英語を駆使して質問しはじめました.

まず,事前に送ったコメントについて,説明を求めました.(発表の際には,そのことに触れられていなかった.)相手がすんなり自分の間違いを認めて訂正してくれたので,少しほっとしました.流れの計算方法についていろいろとやりとりしたあと,氷の割れ方が不自然に見えることを指摘して議論.

first opponentとのやりとりでも少しずつ見えてきていたのですが,今回の博士論文はソフトウェアを開発したことが重要な成果で,しかしひとつひとつの部品には他の人の成果をそのまま取り入れたものも多いようでした.そこで,何が自分の成果なのかを説明してくれるように繰り返し求めました.自分の英語が拙いのでうまく伝わっていないらしい局面もありましたが,こちらが欠点を指摘して相手がそれを素直に認めるたびに,金野が”But you must defend your thesis!”と言って自分の成果をアピールするよう促したのは相手の印象に残ったようでした.(あとでディナーのときに言われました.)

終わったときには45分ほど経っていました.もしかしたら短かったのかもしれませんが自分が聞きたかったことはぜんぶ聞けたので,そこで終わりにしました.終了後に別室で打ち合わせて,審査合格を出し,晴れて博士候補者は博士になりました.

自分の質疑応答がopponentとして十分だったのかどうか,少し心配でしたが,審査委員の先生や指導教員の先生は,とてもよかったと言ってくれました.いくらか差し引いて受け取る必要があるだろうとは思いますが,ほっとしました.再び代表の先生のオフィスに行って,審査報告書を完成させてサインし,オフィシャルな仕事は終了.

伝統的に,博士候補者が審査を通過すると,関係者をディナーに招待して謝意を表するのだそうです.金野も招かれて,行ってきました.博士候補者の両親と妹さんが来ていて,総勢30名ほどだったでしょうか.盛会でした.金野も日本からだるまを持って行って,目を入れてもらったりしました.それから博士論文にサインをもらいました.(ミーハー)

博士論文審査のopponentというシステムは,北欧に特有で他の国にはあまりないもののようです.opponentを勤めることは,もう二度とないかもしれないなぁ.今回は非常に貴重な体験をさせてもらったと思っています.専門分野の研究内容について英語で詳しく議論するのですごく勉強になったし,重要な仕事をやり遂げたので,自信にもなりました.

それと,日が短くなったトロンヘイムを経験できたのもよかったです.

 

博士論文審査のopponentを勤める(就任・査読編)

12月3日,ノルウェー科学技術大学での博士論文審査にopponentとして参加してきました.

opponentというのは辞書には議論の相手,敵対者,反対者などと書いてあります.今回の場合は,博士論文を精読してその内容について博士候補者に質問したり,欠点を指摘するなど,博士論文に対する厳しい攻撃を加える人の役割です.
この攻撃に耐え抜けたときのみ,審査を通過して博士になれる,というわけです.ですので審査は”PhD defense”と表現されます.

金野が極東からノルウェーまで呼ばれたのは,博士論文の分野が金野の研究分野と丸かぶりだからだと思われます.近い分野の偉い先生を審査に呼ぶのではなく,まったく同じ分野の研究をしている人を呼んで戦わせるらしい.

8月にスウェーデンに出張しているとき,ノルウェーの偉い先生からメールが届きました.メールのタイトルが”Opponent”.びびりました.
内容を読んだところ,博士論文のopponentになれということ.スウェーデンのホテルで,opponentはどんな意味で何をすればいいのか調べてから,承諾の返信をしました.

博士論文のPDFファイルが送られてきて,それを査読してコメントを返したのが10月末でした.ぜんぶで290ページもある論文で,また締切がちょうどうちの学科のJABEE実地審査の時期と重なっていたため,その直前の九州出張の期間や実地審査の待機中などに査読したりコメントを書いたりしていました。あの数日はハードだった….

でも自分と同じ研究分野なので,論文の勘所はだいたい分かりました.論文を書いた人には悪いのですが,欠点や突っ込みどころも容易に見つけられました.自分も同じところを失敗したり,時間をかけて検討したりしてきたわけですから.

そして12月3日の本審査に至るわけですが,それについては稿を改めたいと思います.

新サイトに移転(ここは新しいサイトです)

これまでBloggerでブログを公開していましたが、こちらのサイト http://www.akihisakonno.net に移転することにしました。いろいろ遊んでみたい、試したいと思ったからです。

旧ブログと同様、新しいブログもよろしくお願いいたします。

あれから4年

あれから4年.

この季節が来ると,この1年はどんなことが出来たのかなぁと反省します.年末よりもいまの方が深く反省しているかも.将来の日本の役に立つと信じて,日々の努力を継続中.

別の記事にも書きましたが,「日本のプレゼンスのため」という(なんとも曖昧な)理由で,国際技術委員会の委員長をやっています.委員長の仕事を全うすること自体が,世の中の役に少しは立つと信じたい.
それと,委員会を通して世界中に研究仲間が出来ました.これを活かして,研究の面でも日本の役に立ちたいものです.いまはまだ方法を模索している段階.

2014年度は新しい研究プロジェクトに参加できました.これまでの研究成果を活かせる内容です.研究期間はあと半年ほど.まだ成果は出ていませんが,頑張ります.少しは日本の科学・技術の発展に貢献したい.

4月からは研究テーマの見直しもしようと思っているところ.自分の強みを活かせる分野に集中したい.

それから,2014年度は13年度に引き続き,ビデオ教材をたくさん作って公開し,うれしいことに役に立ちましたといってもらえることも増えました.
今年も改善していきます.こっちでもやりたいことはたくさんある.

今年も初心を忘れず,引き続きがんばります.

国際技術委員会の委員長に就任・ACからのプレッシャー編

金野が技術委員会(Specialist Committee、SC)の委員長になるまでの話をこれまで書いてきましたが、技術委員会は上位の委員会(Advisory Council、AC)から仕事(Terms of Reference、TOR)を与えられて、それを3年かけて実施するのが通常の流れです。前期もそのように実施してきました。
しかし今期は、われわれの委員会だけ通常とは違う手順で進むことになりました。

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国際技術委員会の委員長に就任・総会での出来事編

推薦されるまで編の続きです。

金野は日本から国際技術委員会の委員長に推薦されたが、金野よりベテランで、水槽を持っている組織に所属しており、押し出しもよく英語も話せる委員がほかにいる、という話を前の記事に書きました。金野はよくて第2候補、実際にはもっと下位の候補だっだと推測しています。

しかしながら、2014年9月のITTC総会で、金野は委員長になっちゃいました。 “国際技術委員会の委員長に就任・総会での出来事編” の続きを読む

国際技術委員会の委員長に就任・推薦されるまで編

昨年の11月から更新していませんでした。忙しさにかまけて。

昨年の反省もありますが、まずはここ数日のことを。

2月3日と4日に、ITTC Specialist Committe on Iceの会合を主催して、外国人の委員を相手にいろいろ議論しました。

このブログには書いていませんでしたが、昨年9月にコペンハーゲンで開かれたITTC総会で、Specialist Committee on Iceのchairに任命されました。日本語に直訳すると、氷の専門家委員会の委員長です。
(ITTCのCommittee Membersのページに記載されています。)
専門家委員会と言うとピンとこないので、説明するときは「国際技術委員会の委員長のことだ」と言っています。 “国際技術委員会の委員長に就任・推薦されるまで編” の続きを読む

10,000時間ルールと20時間ルール(?)について

10,000時間ルール(Googleで検索して下さい、たくさん出てきます)に関して、授業中に触れたことがありましたが、上記に貼り付けた動画を観ていて、もしかしたら正しくない説明をしていたかもしれないと気づいたので、改めて説明します。

10,000時間ルールというのは、その分野のトップクラスの実力をつけるために必要な訓練時間です。具体的には、チェスのグランドマスターとか、国代表レベルのトップアスリートに至るまでの訓練時間に関する調査結果に基づいています。
「一流になるのに必要な訓練時間」と考えて良さそうです。

講演者のJosh Kaufman氏は上記の動画のなかで、ちゃんとできるようになるための必要時間(←ここ意訳。本当の表現は「何も知らない状態から、自分自身にびっくりするぐらいできるようになるまでの時間」)として「20時間」を挙げています。

もちろん、その20時間の過ごし方がとても重要で、…あとは動画を観てください。講演者本人による実例も出てきます。(英語)

「絵とき 機械工学のやさしい知識 改訂2版」が出版されました!

オーム社さんから「絵とき 機械工学のやさしい知識 改訂2版」が出版されました!

第1版は(故)小町弘先生と吉田裕亮先生の手によるもので,1990年に出版されています.それから24年が経ち,内容を改めるにあたって,都立足立工業高校の櫻井美千代先生と金野がお手伝いしました.

金野は1,2,6,7章を担当しました.この章の写真集めや撮影に,工学院大学の先生方や,うちの研究室の学生さんにご協力いただきました.この場を借りて御礼申し上げます.

機械工学をこれから学ぶ学生や,若い技術者の方にとって役立つ内容になっていると思います.改訂前と同じ価格(税抜きで2,700円)で購入できます.
先日出版された本は,高価だったので安易にお勧めできませんでしたが,今回はお勧めしても怒られない価格かと思います.

書店などで是非お手にとってご覧下さい.

絵とき 機械工学のやさしい知識(改訂2版)
小町 弘 吉田 裕亮 金野 祥久 櫻井 美千代
オーム社

キャビテーションについて・お問い合わせになる前にお読みください

以前にキャビテーションの研究をしていたため,現在でもキャビテーションについて,たまに問い合わせを受けることがあります.しかし多くの場合は「それは私には分かりません」または「それはキャビテーションじゃないと思います」と答えることになるので,心苦しく思っています.

お問い合わせになる方は,事前にこの記事をお読みいただけると幸いです.
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